(本の紹介も兼ねて一部を引用します)
「一葉の写真 若き勝負師の青春」 先崎学 講談社文庫(1996/5/15初版)
(P.61より)
・・・・・・ヒロアキは立派だった。将棋は弱く、才はなかったが、彼は立派な戦士だった。夢を持ってこの世界に入り、挫折し、故郷に帰っていった。帰るときの顔は、病気のような顔だった。毎日のように麻雀を打ち、酒を飲み、その間に恋をして、そして敗れた。ヒロアキはやめるときに、何か俺にいいたかったんじゃないのか。何もいわずに彼はやめていった。去っていった。本当は何か一言、いうべきことがあったんじゃないのか。
「馬鹿野郎」
「こん畜生」
無数の声なき声が頭にひびく。ヒロアキたちは決して器用な人間ではなかった。立ち回りや世渡りがうまい奴は一人もいなかった。
だが彼らは、本音で自分を語れる奴らだった。泥くさい奴らだが、ハートはあった。その奴らが、何もいわずに去っていった。彼らの亡霊に取りつかれて、今日も僕は将棋を頑張る。そして、やるからには、羽生に、森内に、佐藤康光に、郷田に勝たなければいけない。